◇




この船は、ルフィを中心に回っている。



当然といえば当然だ。
彼は船長であり、彼がいなければこの航海はまず始まってはいないのだから。
共に乗船する仲間達とは出逢ってもいなかったことだろう。

そう。
全ては常に、ルフィから。
彼を失くしたら自分達は一体どうなってしまうのか、なんて。

考えたこともなかった。



「…どうなっちまうんだかな、ホントに」



この船に限って言えば、おそらく海賊をやる理由そのものが無くなる奴が大半だろう。
彼がいないと成り立たないのだ。この船に乗っているという、その現実自体が。

あるいは。
それだからこそ、助けるのかも知れない。
居てくれなくてはどうしようもなくなる。彼を失えば、全てが瓦解する。
だからその危機は自分達にとって一大事で、
自分達の都合がそれを引き起こすことを許さない。


彼を助けるのは。
その実彼のためではない、と。

つまりは、そういうことなのだ。












「…なぁ、早く作らねェとまずいんじゃねェか?」



一瞬心臓が止まりそうになる。


ハッと顔をあげると、いつの間に入ってきたものやら、
波間から生還したばかりの船長殿がこちらの顔を覗き込んでいた。




「ナミに殴られるぞ?」




どうやら思考に耽るあまり動作が停止していたらしい。
それは普段の自分にあるまじきことだと気付いて、サンジは慌てて取り繕う。




「そ、んなこと……テメェに言われなくとも分かってるっての!」
「だって手ェ止まってたから」




あっけらかんと言うルフィは、こちらはこちらで珍しく、突っ立ったままでいる。




「…ナミさんそんなに怒ってんのか?」




そこまで待たせているわけではないはずなのだが、
ルフィがわざわざ来るくらいなので確かにまずいのかも知れない。

…が、ルフィはそれには直接の答えを返さなかった。




「とにかく早く持ってって、そんでおやつ作ってくれ!」
「やっぱりそこかよ」




結局予想通りの答えが返ってきたことに、内心ホッとしている。
そんな自分が自分で恥ずかしくて、サンジはさっさとルフィを追い出すことにした。




「ほらもう分かったから、外でウソップ達と遊んでろ」
「おやつは?」
「後だ、後!テメェがいるとうるさくて敵わん。ナミさんのドリンクが作れねェんだよ」
「ちぇっ、誰が居たってちゃんと作るくせによー」




ぶつぶつ言いながらルフィは出ていく。





「…ったく」





自分しかいなくなったダイニングは、やけに静かで。
追い出してから、ふと気付いた。




「…あいつ、なんでナミさんにドリンク頼まれたの知ってんだ?」




聞いていたからだと言えばそれまでだが、
特に珍しい内容でもないいつも通りのやり取りを、
ルフィがわざわざ耳に留めたりするものだろうか。

そこまで考えて、サンジは絶句する。


気付いて、しまった。






「…そう…か」






ルフィは、あれで意外にいろんなものを見ている。
船での仲間達の行動も、実は大まかには把握していたりするのだ。

そして今回、彼が見ていたのは。




「おれ、か」




腹が減ったのは本当だろう。
ナミが訝しんでいるのも本当なのだろう。
だがそれ以前に、ルフィはサンジの様子を気にしていたのだ。

サンジもまた、いつも通りではなかったから。




「情けねェ…」




目を閉じて、天井を仰ぐ。

スリラーバーグの一件以来、
全員が何か、今まで知らなかったものをいやに意識している気がする。
…違う。
知ってはいたが、分かってはいなかったのだ。

失くすということ。
守るということ。
いつもの日々が、来ないということ。




「…分かってるさ」




サンジはそっと独りごちた。

もう、分かっている。
だからこそ。




「作るよ。ちゃんと」




誰が居ても。誰が居なくても。

一流のコックはそうでなくてはならない。
自分で掲げたポリシーだ。
けれどもそれを、船長がわざわざ言葉にしたから思い出せた。

ルフィがそれを求めるなら、自分はそうありたい。
いつもの、普段通りの自分で。





「奮発してパフェでも作ってやるかな」





その前に、レディ達に美容ドリンクを作って。
パフェが似合わない剣士には、面倒だが洋酒入りのケーキを用意して。

いつもと変わらないことを考え始めた自分にサンジは、あぁ日常だと思う。



おかしな話だ。
様子のおかしい仲間をピンポイントで気遣うなど、普段のルフィはしないというのに。

そこには全く違和感を感じなかった。





「さすがは船長、ってか」





“だから”かも知れないが。


そしてふと、理解した。









あるいは。

ゾロも、自分のためだったのかも知れない。
いつかの仲間取り合戦で本人も言っていたが、
彼の乗船の理由は、それこそルフィ一人に絞られるからだ。

失ったらどうなるかなんて考えるまでもない。
あの時誰か一人でも欠けていたら今日は無かった。
つまり、どちらに転んでも大損害だったわけで。

それが分かっているから仲間達も危機感を覚えた。
それが分かったから、自分達は今日を生きるのだ。











優秀なる一流コックは再び日常へと戻っていく。














彼は、今日も考える。

はたして何人前用意すれば、あの胃袋は満足してくれるだろうか。







END

親愛なるMorlin.様 相互記念に


実はこれ、冒頭部分だけは一年以上前に考えてたものでして。
サンジ視点なのは決まってたけどいつ使おうか持て余していたネタなのです。
スリラーバーク後なのでシリアスっぽい雰囲気ですが、
当時あれを読んで、まぁサンジさん相当悶々してるだろうなぁと思った花菫です
(笑)

彼は誰よりも複雑な気持ちで二人を見てる気がする。
麦わら三強とか言われるのに、彼らとサンジの間には若干線引きがある、みたいな。

でもルフィが名前を呼ぶのはサンジの方が圧倒的に多いと思う。
「サンジ!飯〜!!」って
(笑)

いつかMorlin.様のように、素敵なお母さんサンジを書けるようになりたいです。
こんなもんでは記念にもなりませんが、頑張って書きました。
気が向けばまた、いつでもお越しくださいね。大歓迎いたします!
私もこっそりお邪魔します!


09/10.25 筆 花菫**


 *一番新しいお友達、花菫さまから相互リンク記念にといただいた作品ですvv
  うああ、どうしましょうかっ。
  ウチのおちゃらけたお話なんて恥ずかしくなるほどに、
  真摯でクールな作品で、

  いいんでしょうか、ウチなんかとリンク張り合ってしまわれて…。
(う〜んう〜ん)

  こちらこそ、これからもどうかよろしくお願いいたしますね?
  頼もしい仲間たちに見守られ、
  らしさを失わず伸び伸びしておいでのゾロルをお書きのお嬢さんですvv
  皆様もどうぞお運びをvv


花菫さまのサイトはこちら→『
Le jardin


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